ブランドアイデンティティとは?
現代の競争激化する市場において、顧客の心をつかみ、競合との差別化を実現することはますます困難になっています。そんな時代において、企業の持続的な成長にとって不可欠な要素となるのが、ブランドアイデンティティです。
ブランドアイデンティティとは
ブランドアイデンティティとは、「自社が何者であるか」を明確に定義するものです。それは単なるロゴやキャッチコピーではなく、企業理念、価値観、ビジョン、そして顧客への約束など、企業の核となる要素を包括的に指します。
ブランドアイデンティティを確立することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 顧客との深い繋がり
- 顧客は、自社の価値観に共感するブランドに惹かれ、信頼関係を築きやすい
- 顧客エンゲージメントの向上
- 競合との差別化
- 機能や価格以外の、独自の存在価値で顧客に訴求できる
- 競合との差別化を図り、市場での優位性を確立
- 社員のモチベーション向上
- 共通の目標を掲げることで、社員の一体感を高め、組織を活性化
- 社員が自社の仕事に誇りを持ち、モチベーション高く取り組める
ブランドイメージは、顧客が企業に対して抱くイメージです。ブランドアイデンティティは、このブランドイメージを形成する土台となります。
ブランドアイデンティティの重要性
ブランドアイデンティティは、単なる一時的な流行ではなく、長期的な視点に立ったブランド戦略の根幹を担います。
- 顧客ロイヤルティの向上
- 顧客は、単なる商品やサービスではなく、企業の価値観に共感することで、深いロイヤルティを抱く
- 顧客生涯価値 (LTV) の向上
- 従業員エンゲージメントの向上
- 従業員は、自社の価値観に共感することで、仕事に誇りを持ち、高いモチベーションを維持
- 人材流出の抑制
- 企業価値の向上
- 強いブランドアイデンティティは、企業の無形資産として評価され、企業価値の向上に繋がる
- 投資家や金融機関からの評価向上
競合との差別化におけるブランドアイデンティティの役割
競合ひしめく市場において、ブランドアイデンティティは、単なる機能や価格競争を超えた、独自の価値観で顧客に訴求し、競合との差別化を実現するための重要な役割を果たします。
- 顧客ニーズの多様化
- 現代の顧客は、機能や価格だけでなく、商品の背景にあるストーリーや価値観を求める
- エシカル消費やサステナビリティへの関心の高まり
- 機能・価格競争の激化
- 機能や価格での差別化が難しくなっている
- レッドオーシャンからの脱却
パーパスブランディングとは?
パーパスブランディングとは、企業の存在意義である「パーパス」を明確に定義し、それをブランド戦略の中核に据える経営手法です。単なる利益追求ではなく、社会課題の解決やより良い社会への貢献といった、企業の更高的目標を掲げることで、顧客、従業員、社会との共感を生み出し、持続的な成長を実現します。
パーパスブランディングのメリット
パーパスブランディングは、以下のようなメリットをもたらします。
- 顧客エンゲージメントの向上
- 顧客は、自社の価値観に共感することで、深いロイヤルティを抱き、ブランドへの愛着を持つ
- 顧客との長期的な関係構築
- 顧客の声や意見を積極的に収集し、商品・サービス開発に活かせる
- 顧客体験 (CX) の向上
- 従業員エンゲージメントの向上
- 従業員は、自社の仕事が社会に貢献していることを実感することで、モチベーションを高め、仕事に誇りを持ち
- 人材の採用・定着率の向上
- イノベーションの創出
- 企業価値の向上
- 強いパーパスを持つ企業は、投資家や金融機関から高く評価され、企業価値の向上に繋がる
- ESG 投資の重要性
パーパスブランディング導入の成功事例
パーパスブランディングを導入し、成功を収めている企業は数多く存在します。ここでは、特に顧客エンゲージメントと従業員エンゲージメントの向上に効果を発揮した事例を2つ紹介します。
株式会社ユニクロ / パーパスブランディング導入の成功事例
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というパーパスを掲げ、衣服を通じて人々の生活をより快適で豊かなものにすることを目指しています。具体的には、低価格で高品質な衣服を提供することで、世界中の人々に衣服を届ける「LifeWear」プロジェクトを展開しています。
顧客エンゲージメントの向上
- 低価格と高品質の両立: ユニクロは、徹底したコスト管理と効率的な生産体制により、低価格で高品質な衣服を提供しています。これは、顧客にとって大きなメリットであり、高い評価を得ています。
- 機能性とデザイン性: ユニクロは、機能性とデザイン性を兼ね備えた衣服を開発しています。これは、顧客のニーズに合致しており、顧客満足度の向上に繋がっています。
- グローバル展開: ユニクロは、世界中に店舗を展開しています。これは、世界中の人々に衣服を届けるというパーパスを実現するための重要な取り組みです。
従業員エンゲージメントの向上
- 従業員を「仲間」と呼び、尊重しています。
- 従業員研修やキャリアパス制度などを充実させることで、従業員のスキルアップを支援しています。
- ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、多様な人材を受け入れることで、組織の活性化を図っています。
株式会社パタゴニア / パーパスブランディング導入の成功事例
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを掲げ、環境保護活動に積極的に取り組んでいます。具体的には、製品の環境負荷低減やリサイクル素材の使用、環境問題に関する情報発信などを行っています。
顧客エンゲージメントの向上
- 環境問題への意識の高まり: 近年、顧客は環境問題への意識が高まっており、環境に配慮した企業や製品を高く評価する傾向にあります。
- 製品の品質: パタゴニアは、高品質な製品を提供しています。これは、顧客にとって大きなメリットであり、高い評価を得ています。
- ブランドイメージ: パタゴニアは、環境保護活動に積極的に取り組む企業として、高いブランドイメージを築いています。
従業員エンゲージメントの向上
- 従業員が自分たちの仕事が環境保護に貢献していることを実感することで、モチベーションを高め、仕事に誇りを持てるようにしています。
- パタゴニアは、従業員が環境問題について学ぶ機会を提供し、 従業員の環境意識を高めることで、環境保護活動への積極的な参加を促進しています。
- パタゴニアは、 従業員が自然と触れ合うことで、環境への理解を深めることを目的として、アウトドアを楽しむことを推奨しています。
まとめ / パーパスブランディング導入の成功事例
パーパスブランディングは、顧客、従業員、社会との共感を生み出し、企業の持続的な成長を実現するための有効な経営手法です。上記の事例は、パーパスブランディングが顧客エンゲージメントと従業員エンゲージメントの向上に効果を発揮することを示しています。
具体的なパーパスブランディング導入方法
パーパスブランディングを成功させるためには、以下の6つのステップを踏むことが重要です。
自社のパーパス(存在意義)の明確化 / パーパスブランディング導入方法
パーパスブランディングの第一歩は、自社のパーパス(存在意義)を明確にすることです。これは、単なる利益追求ではなく、社会課題の解決やより良い社会への貢献といった、企業の更高的目標を掲げることです。
- 経営層と従業員による議論: 経営層と従業員が一体となって、自社の存在意義について議論を重ねることが重要です。
- ステークホルダーとの対話: 顧客、取引先、地域社会など、様々なステークホルダーとの対話を通じて、自社の役割を再認識することが重要です。
- 自社の強みや価値観の棚卸し: 自社の強みや価値観を棚卸しすることで、自社が社会に貢献できる領域を明確にすることができます。
ブランドアイデンティティの定義 / パーパスブランディング導入方法
パーパスを明確にした後は、ブランドアイデンティティを定義します。これは、「自社が何者であるか」を具体的に表現したものであり、以下の要素が含まれます。
- ビジョン: 将来的な目標や目指す姿
- ミッション: 存在意義を実現するために果たすべき役割
- バリュー: 大切にする価値観
- ブランドストーリー: ブランドの起源や理念を伝える物語
ビジョン、ミッション、バリューの策定 / パーパスブランディング導入方法
ビジョン、ミッション、バリューは、ブランドアイデンティティを具体的に表現するための重要な要素です。
- ビジョン: 具体的な数値目標や期限を盛り込むことで、達成可能な目標として設定することが重要です。
- ミッション: 自社の強みや価値観を活かせる具体的な活動内容を盛り込むことが重要です。
- バリュー: 従業員が日々の行動指針として活用できるような、具体的な行動基準を盛り込むことが重要です。
社内における理解と共感の獲得 / パーパスブランディング導入方法
パーパスブランディングを成功させるためには、経営層だけでなく、全従業員がパーパスを理解し、共感することが重要です。
- 経営層による積極的なコミットメント: 経営層がパーパスを積極的に発信し、従業員との対話を通じて理解を深めることが重要です。
- 従業員への研修: パーパスに関する研修を実施することで、従業員の理解を深め、共感を促進することができます。
- 社内コミュニケーションの活性化: パーパスを共有するための社内報や社内イベントなどを活用し、従業員間のコミュニケーションを活性化することが重要です。
顧客への効果的なコミュニケーション / パーパスブランディング導入方法
パーパスを顧客に効果的に伝えるためには、様々なチャネルを活用する必要があります。
- ブランドメッセージ: パーパスに基づいた一貫性のあるブランドメッセージを発信することが重要です。
- 顧客との接点におけるコミュニケーション: ウェブサイト、広告、店舗、イベントなど、様々な顧客との接点においてパーパスを伝えることが重要です。
- 顧客参加型の取り組み: 顧客がパーパスに共感し、参加できるような取り組みを実施することで、ブランドへの愛着を高めることができます。
継続的な改善と進化 / パーパスブランディング導入方法
パーパスブランディングは、一度導入すれば終わりというものではありません。社会環境や顧客ニーズの変化に合わせて、パーパスやブランドアイデンティティを定期的に見直し、改善していくことが重要です。
- 定期的なアンケート調査: 顧客や従業員を対象としたアンケート調査を実施することで、パーパスに対する理解度や共感度を把握することができます。
- データ分析: 顧客データや市場データを分析することで、パーパスに基づいた効果的なマーケティング戦略を策定することができます。
- 外部からの意見: 専門家や他の企業からの意見を取り入れることで、パーパスブランディングをより効果的に推進することができます。
まとめ / パーパスブランディング導入方法
パーパスブランディングは、競争優位性を確立し、持続的な成長を実現するための重要な経営手法です。上記の6つのステップを参考に、パーパスを明確化し、ブランドアイデンティティを構築することで、顧客、従業員、社会との共感を生み出し、企業の価値を高めることができます。
ブランドアイデンティティ強化のためのヒント
ブランドアイデンティティを強化し、競争優位性を確立するためには、以下の5つのヒントが役立ちます。
顧客視点に立ったブランド体験の提供 / ブランドアイデンティティの強化方法
顧客視点に立ったブランド体験を提供することで、顧客との深い繋がりを築くことができます。
- 顧客ニーズの理解: 顧客のニーズや課題を深く理解し、それらを満たすような商品やサービスを提供することが重要です。
- カスタマージャーニーマップの作成: 顧客が商品やサービスを購入するまでの過程を可視化することで、顧客体験を改善することができます。
- 顧客とのタッチポイントの管理: ウェブサイト、店舗、イベントなど、様々な顧客との接点において、一貫性のあるブランド体験を提供することが重要です。



一貫性のあるブランドメッセージの発信 / ブランドアイデンティティの強化方法
ブランドメッセージは、ブランドアイデンティティを表現する重要な要素です。
- 一貫性のあるメッセージ: すべてのチャネルにおいて、一貫性のあるブランドメッセージを発信することで、顧客にブランドイメージを明確に伝えることができます。
- ブランドストーリーの活用: ブランドストーリーを活用することで、ブランドメッセージに深みを持たせることができます。
- 従業員への教育: 従業員がブランドメッセージを理解し、顧客に正しく伝えることができるよう、教育することが重要です。
社員エンゲージメントの向上 / ブランドアイデンティティの強化方法
社員エンゲージメントを高めることで、従業員がブランドを体現し、顧客にブランドアイデンティティを伝えることができます。
- 従業員へのパーパスの浸透: 従業員がパーパスを理解し、共感することで、仕事へのモチベーションを高めることができます。
- 従業員参加型の取り組み: 従業員がブランドアイデンティティの構築に参画することで、愛着を高めることができます。
- 従業員への評価制度: ブランドアイデンティティに基づいた評価制度を導入することで、従業員の行動をパーパスに沿った方向へ導くことができます。
最新のトレンドや技術を取り入れる / ブランドアイデンティティの強化方法
最新のトレンドや技術を取り入れることで、ブランドアイデンティティをより効果的に表現することができます。
- メタバース: メタバース空間において、ブランド体験を提供することで、顧客との新たな接点を生み出すことができます。
- NFT: NFTを活用することで、デジタル上のブランド資産を構築することができます。
- AI: AIを活用することで、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたブランド体験を提供することができます。
競合分析 / ブランドアイデンティティの強化方法
競合企業のブランドアイデンティティを分析することで、自社の強みや弱みを把握することができます。
- 競合企業のパーパスやブランドメッセージを分析することで、自社の差別化ポイントを見つけることができます。
- 競合企業の顧客との接点を分析することで、自社の改善点を見つけることができます。
まとめ / ブランドアイデンティティの強化方法
ブランドアイデンティティは、競争優位性を確立し、持続的な成長を実現するための重要な要素です。上記の5つのヒントを参考に、ブランドアイデンティティを強化し、顧客との深い繋がりを築き、企業価値を高めることができます。
パーパスブランディング導入における課題
パーパスブランディングは、多くのメリットをもたらす一方で、導入にあたっていくつかの課題も存在します。
従業員の理解と共感の獲得 / パーパスブランディング導入における課題
パーパスを明確化し、ブランドアイデンティティを構築しても、従業員が理解し、共感しなければ、パーパスブランディングは成功しません。
- 経営層と従業員間のコミュニケーション不足: 経営層がパーパスを一方的に押し付け、従業員との対話がない場合、従業員はパーパスへの理解や共感を持ちにくくなります。
- 従業員への教育不足: 従業員がパーパスを理解し、仕事に活かせるように、教育や研修が必要です。
- 従業員のモチベーション低下: パーパスと従業員の仕事内容が乖離している場合、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
顧客への効果的なコミュニケーション / パーパスブランディング導入における課題
パーパスを顧客に効果的に伝えるためには、単に広告宣伝するだけではなく、様々なチャネルを活用し、顧客との接点全てにおいて一貫性のあるメッセージを発信する必要があります。
- 顧客ニーズへの理解不足: 顧客のニーズや課題を理解せずにパーパスを伝えても、顧客には響きません。
- ブランドメッセージの一貫性不足: 異なるチャネルで異なるメッセージを発信すると、顧客は混乱してしまいます。
- 顧客との接点不足: 顧客との接点が少ない場合、パーパスを伝える機会が少なくなります。

継続的な改善と進化 / パーパスブランディング導入における課題
パーパスブランディングは、一度導入すれば終わりというものではありません。社会環境や顧客ニーズの変化に合わせて、パーパスやブランドアイデンティティを定期的に見直し、改善していくことが必要です。
- 定期的な評価: パーパスやブランドアイデンティティが、企業の目標達成に貢献しているかどうかを定期的に評価する必要があります。
- 柔軟性: 変化に対応するために、パーパスやブランドアイデンティティを柔軟に変更する必要があります。
- 社内外の意見を取り入れる: 経営層だけでなく、従業員、顧客、専門家など、様々な人の意見を取り入れることで、パーパスブランディングをより効果的に推進することができます。
まとめ / パーパスブランディング導入における課題
パーパスブランディングは、競争優位性を確立し、持続的な成長を実現するための重要な経営手法です。しかし、導入にあたっては、従業員の理解と共感の獲得、顧客への効果的なコミュニケーション、継続的な改善と進化といった課題があります。これらの課題を克服し、パーパスブランディングを成功させるためには、経営層と従業員が一体となって取り組むことが重要です。
パーパスブランディングに関する参考文献・参考サイト
本稿を作成する上で参考となった参考文献・参考サイトをご紹介します:
- 書籍
- 三宅 博之. (2023):パーパス(存在理由)で、企業は成長を続けることができる。国内外のエクセレントカンパニーに学ぶ存在理由(パーパス)で会社を変える方法。日本で早くから「パーパス」に取り組んだ著者がその定義と社会的背景、実践から効果までを解説。翔泳社.
- 山口 周. (2022):ブランド人材の教科書: なぜ、あの人はブランドで輝けるのか? なぜ、あの会社は選ばれ続けるのか? ダイヤモンド社.
- 参考サイト
- Cross Marketing:パーパスブランディングとは?従来のブランディングとの違いと重要視される理由を解説: https://www.cross-m.co.jp/column/marketing/mkc20220603/
- ファーストリテイリング:https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/
- パタゴニア:https://www.patagonia.jp/ownership/